桜色の…











 校舎の体育倉庫の前には一本の八重桜の木があった。
 四月になると満開の桜が咲き誇り、体育倉庫を薄紅に染めていく。
 それはとても綺麗だった。


 「桜の木、綺麗だと思いませんか?」
 「ア?喰えんモンには興味なか」
 「仁王君らしいですね。私は桜が好きなのです」
 「フーン。桜餅とか喰いたいのう」
 「では帰りに一緒に買いましょう」
 「ンー、そうじゃの」


 体育倉庫に部活で使った用具を片付けながら、そんな会話をした。
 開け放した扉からハラハラと幾つもの花弁が散り落ちてくる。
 スニーカーを履いた二人の足元は、桜色に染まっていた。

 「やっぱり綺麗ですよ。ほら、見て下さい」
 と、言うと
 「ピンク色のゴミじゃ。俺はここの掃除担当じゃけ、毎日ウザいわ」
 と、仁王は言った。
 「そうでしたか。それなら面倒かもしれませんね」

 苦笑いしながら倉庫を出て行こうとしたら、腕を掴まれた。

 「何ですか?」
 「もちっとココにおれ」

 そう言った仁王の瞳は、草原の茂みに隠れて獲物を狙う獰猛な獣のようだった。



 扉を閉めた。
 すると扉と扉の間から一筋の光が漏れ射してくる。
 その筋の向こうは桜色の景色が細く見えた。

 床に落ちた桜の花びらの上で足を開かされた。

 「…んッ、…んッ」

 柳生は何とか声を漏らさないようにと、脱ぎかけのTシャツを咥えた。
 ハアハア、と興奮した仁王の息遣いが聞こえる。
 仁王の指が窄まりを弄ってくる。
 太く長い指で犯されると、嫌でもそこが熱くなった。

 「…な、自分のココ、見たことあるか?」

 「…んッ、……ない、ですよ、」

 何とか答えると、窄まりを濡れた舌で舐められた。
 ピチャピチャと舌先を出し入れされる。

 「やッ…、あッ、ンっンっ」

 下肢から這い上がるような快感に身体が悶えた。
 指だけでは物足りなくて、腰元が焦れる。

 「…桜色しとるぜよ。おまえの好きな桜じゃ」

 「な…――ッ」

 仁王の薄ら笑みが目に浮かぶようだった。
 桜の木を好きだといった自分を辱めて喜んでいる顔をしているのだろう。
 けれど、柳生は腹が立たなかった。
 怒りを感じる前に、仁王の脈打つ性器が桜色だと揶揄されたそこに押し入ってきたからだ。

 「…ひッ、あッ、痛ッ…、ああッ」

 仁王は優しさのかけらもなく乱暴に蹂躙しつくすと、勝手に中で果てた。
 ああ、勝手にと言うのは違う。
 柳生もまた、後ろだけで達していたのだから。


 急いで身支度を整えて外に出ると、桜は先程変わらず綺麗だった。

 「なあ、柳生」

 「はい」


 「桜、キレイじゃのう」



                                                                            end.
                                                                     (2006/3/27)



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