押入れ 修学旅行に来ていた。 宿泊ホテルに到着して、まず柳生は荷物の整理に取り掛かる。 クラスメイト達はみな一様に荷物を放り出すと、ホテル探検に行ってしまった。 興奮するのも仕方ない。 入浴用の荷物もまとめ、明日の着替えの準備も終えた。 完璧です。 「さてと…」 自分も散策に出ようかと廊下に出ると,、たまたま通りかかった仁王に出会った。 同じ部活だけれどクラスが違うので、日ごろはあまり話すこともない。 「こんばんは、仁王くん」 「よー、柳生やなかと。メシ食い終わったら丸井ンとこでUNOするんじゃ。 おまえさんも来んしゃい」 「UNOですか。楽しそうですね。参加させてもらいましょう」 誘われると、二つ返事でOKする。 仁王は片手を上げ、「後でなー」と去って行った。 薄汚れた赤い絨毯の廊下を歩いていく仁王後姿を眸で追いかけながら、少し胸が高鳴る。 明るい仁王が好きだった。 まるで、太陽のようだと思った。 言葉は独特で、ときにきつくも聞こえるけれど、本心はとても優しい人だとすぐにわかった。 気づけば仁王を視線で追う。彼は気づくと、いつも笑ってくれた。 それが嬉しかった。 ほんの些細な約束。 けれどドキドキする心は止められない。 早く時間が過ぎればいいのにと、柳生は小走りに長い廊下を歩いた。 夕食も終わり入浴も済ませた。 今からはホテル内での自由行動で、同室の生徒たちはみんな何処かに行ってしまった。 友達のところに遊びに行くもの、お目当ての女子にちょっかいをかけに行くもの。 目的はさまざまだけれど、みんながうきうきとしていた。 いつもは冷静で固いと言われているけれど柳生もごく普通の中学生で。 気持ちはみんなと同じだった。 パジャマ代わりの学校指定のトレーナーを着込むと丸井の部屋を訪ねる。 そこにはすでに、丸井にジャッカル、仁王に柳がいた。 「遅い!」 敷居を跨ぐなり、丸井から文句が飛んでくる。 「すみません。遅くなりました」 謝罪をしながら、入り口付近、仁王の隣に腰を下ろした。 足元に手持ちのカードが配られる。 それを手に、ゲームを開始した。 こういうゲームで強いのは仁王と柳だった。 勝ちはこの二人にもっていかれてしまい、柳生はそのほとんどがびりっけつというありさま。 みんな負けず嫌いのせいか、 ただのカードゲームなのに熱中しすぎて消灯時間を過ぎても続けていた。 他の部屋で遊んでいた生徒たちは、戻ってきて布団に収まっている。 教師に見つかると叱られるので、明かりは落とした。 それぞれの携帯電話の明かりだけが頼りだった。 ふと気づけば、日付が変わろうとしていた。 いけない、もうそろそろ戻らないと。 と、思ったそのとき― 扉の向こう、廊下を走る複数の足音が聞こえた。 全員が呼吸を詰める。 遠くで教師の怒号がした。 隣の部屋だろうか、扉の開閉音と慌しい声。 どうやら、夜更かしをしていた生徒が見つかったらしい。 止まっていた時を破ったのは、 「やべ!」の一言だった。 誰がいったのかわからないけれど、それを契機に全員が適当な布団に潜りこむ。 柳生も焦って手近な布団にと探すが、 定員オーバーの部屋にはもぐり込める布団などなく、知らない生徒の隣に入る勇気もなかった。 こういう状況に慣れていない柳生は、どうも要領よく動けない。 教師が近づく音が段々大きくなり、とうとう隣から声が聞こえてきた。 どうやら部屋を一室ずつ確認しているようで。 どうしよう…。 何とか隠れなければと思うのに、 気持ちばかりが焦って辺りを見回すしかできない。 と、 「コッチじゃ」 おろおろするだけの柳生の手を引いたのは、仁王だった。 引かれるまま、押入れの中に連れ込まれる。 扉を閉めて、真っ暗闇の中息を詰めた。 緊張から、引かれたままの仁王の手をギュッと握り締める。 掴んだ手は温かかった。 心臓の音がバクバクと高鳴り、 物音を立ててはいけないという恐怖と暗闇に、緊張はピークに達した。 ガタン、と障子戸が開く音。 全員が息を詰める。 仁王が柳生の肩をギュッと抱きしめてきた。 彼も緊張しているのでしょうか。 ふと強い力に包まれて、安心を覚える。 教師はみんなが寝静まっているのを確認するとそっと扉を閉めて出て行った。 身体からほっと力が抜ける。 押入れの中からも、空気がほぐれたのがわかった。 危機を脱出すると、自分のとんでもない行動に気づいた。 仁王の手を握り締め、肩を抱かれている。 慌てて身体を離そうと、身じろいだ。 すみません、と言おうとした瞬間。 口に生暖かいものが重なる。 とっさにそれが何かわからなかった。 「ん、ん、」 息が苦しくなり、喘ぐ。 腕を突っぱねると、何かが覆いかぶさってきた。 仁王だった。 生暖かいものは仁王の唇で、キスをされていた。 口の中を仁王の舌が好き勝手に動く。 何が起こっているのかわからなくて、頭が混乱する。 仁王の手が身体をまさぐってきた。 敏感な身体が跳ね、経験のない快感に緊張で硬直状態に陥る。 真っ暗くて仁王の顔が見えない。 怖い。 ただ、そう思った。 恐怖から逃れようと暴れる。 けれど強い力で押さえつけられて股間を押し付けられる。 仁王は勃っていた。 硬直が、一気に興奮に変わった。 下肢に熱が集まり、勃起した。 恥ずかしい。 密着している仁王には、柳生が興奮しているのが伝わるだろう。 逃げ出したかった。 押さえつけられても、必死に逃げようと抵抗した。 重なる唇を振り切り、身体の下から抜け出ようとする。 「―あっ、」 思わず声が漏れた。慌てて口を押さえる。 仁王の手が下着の中に侵入して、下身を握っていた。 昂ぶりへの直接的な刺激に、興奮は最高潮に達した。 熱くなったそれを扱かれると、どうしようもない快感に襲われた。 目を閉じて耐えようとするけれど、全身から力が抜けた。 おかしな声が出そうで、必死で口を押さえる。 身体がぶるぶると痙攣して、目尻に生理的な涙が浮かんだ。 昂ぶりを包む大きな手が離れた。 気持ちよさから放り出されて、 もっと触って欲しいと身体が訴えて震えた。 自分の思考のはしたなさに惨めになる。 瞑った目を開ける。 闇に薄っすらと馴染んで、仁王の輪郭をぼんやりと認識できた。 何をしているのかまではわからないけれど、衣擦れの音がする。 ぼんやりと、その音を聞く。 再び覆いかぶさられると、昂ぶりに熱い濡れた何かが触れる。 それは仁王の下身だった。 互いの熱が合わさり、それを手で擦られる。 「っ、ん、ン、」 腰から全身に甘い痺れが起こり、いけないと思っても声が漏れた。 溶けそうなほど気持ちいい。 イク、イク、アー… 声にできないけれど、身体が叫んだ。 ぶるっと痙攣が走り、放出する瞬間の快感が駆け抜ける。 全てを出し切ると、汗が噴き出た。 口を解放して、荒い呼吸をする。 現実に落ちると、外の様子が気になり始めた。 自分たちの行為がばれてやしないかと。 けれど向かいあった仁王の息遣いに気づいて、それはどうでもよくなった。 頬に落ちる吐息は熱く、ハアハアと喘いでいるようだった。 仁王は自分の身体を弄って、興奮しているのだ。 ようやく行為の意味を理解したところで、 「くっ」 と、仁王の声がして下肢にどろっとしたものが飛んできた。 仁王もイったのだ。 仁王は掠れた呼吸で、全体重をかけてきた。 支えきれず床に背を預ける。 何となく、彼の背中に腕を回した。 身体は熱かった。 「ごめん」と耳元で、とても小さく囁かれた。 何に謝られているのかわからなかったけれど、 「いえ、かまいません」 と答えて瞼を閉じた。 end. |
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