押入れ2 〜僕らの居場所 仁王と柳生が付き合い始めて一ヶ月が経った。 昼ごはんのときも、部活の後帰るときも、ずっと一緒だ。 お互いがお互いをただずっと傍に感じていたかった。 けれど、朝は朝練、昼は授業、放課後は練習、夜は家族。 実際のところ、二人でいられる場所も時間もほとんどなく、キスすらもままならない状況だった。 思春期の二人にとっては、それは欲求不満で堪らない日々だ。 その日は珍しく放課後の練習が簡単に終わったので、仁王は柳生を自分の家に誘った。 両親が共働きの仁王家では、夕刻早い時間だとまだ誰も帰ってきていない。 二人になれる久しぶりにチャンスだった。 部屋でテニスのビデオを見たり、音楽を聴いたり、他愛のない会話をして過ごす。 仁王も柳生もよく笑った。楽しかった。 そう、このときまでは。 「あ、悪ィ。そこの雑誌取って」と、仁王は言った。 柳生の向こう側にある雑誌を手にしたかった。 柳生は自分の背中ににある雑誌を手に取ると、仁王に差し出した。 「はい。これですか?」 「そうそ。それじゃ。ンー、サンキュ」 雑誌を手渡してもらう瞬間、互いの指が触れた。ほんの、一瞬。 「っ…、」 それだけで二人の熱は上昇する。 むかし、暗い押入れの中で熱を分け合ったときのことが蘇った。 あれ以来、想いを伝え合っても接触することなどなかった。 そのせいか余計に意識してしまう。二人の動きが止まった。 視線を絡ませあって、目を逸らすことができなかった。 辺りが微妙な空気に包まれる。なんとなく、性的な色を含んで。 その雰囲気に負けたのは柳生だった。 気まずさを払拭しようと、微笑みながら 「すみませ―…っ、」 と謝罪の言葉を口にするのと同時に、仁王の長い指が柳生の掌を握った。 熱はさらに上がる。 仁王は内心(やべェ)と、思っていた。咄嗟の、無意識の行動だったのだ。 好きな子に触れたいと思う感情が、仁王の身体を突き動かした。 心臓はバクバクと鳴っていた。 仁王はそれを(うるさい)と思いながら、柳生の間近に迫る。 鼻先が触れ合いそうなほど、近くに。 柳生は逃げなかった。 ただ動揺して、眼鏡の奥の瞳が揺れている。 仁王は意を決した。思い切って柳生に口付ける。 「っ…!」 驚いた柳生がほんの僅かに後ろに下がったので、逃がすまいとさらにきつく掌を握り締めた。 角度を変えて唇を吸い、舌で柔らかい部分を舐め、緊張からかがちがちの唇を熱い舌で抉じ開けた。 「んっ」 咥内を蹂躙する。柳生の舌は嫌がって逃げるばかりだ。身体も恐怖で震えていた。 その仕種があまりにも可愛くて、仁王は焦った。 このままだと止まれない。最後までしてしまいそうだ。 熱くなる身体と思考が、理性のたがを破ろうとしている。 駄目だと思う反面、もっと柳生に触れたかった。 仁王は肩を抱きしめて、柳生をフローリングの床に押し倒す。 覆い被さると身体が密着した。こんなに近くに柳生を感じるのは本当に久しぶりだ。 そう思うと高ぶった熱が股間に集中して、勃起した。 硬くなった下肢は柳生の太腿に触れている。きっと柳生も気付いたはずだ。 「んっんっ」 柳生は震えながら必死に胸元を押し返そうとしてくる。 きっと怖いのだろう。 けれどそんなことを気にしてやる余裕は、仁王にはもうなかった。 胸元の手を剥がすと、熱の篭ったいやらしい手付きで身体をまさぐった。 「ん、いやっ」 柳生は顔を背けて悶えた。でも本気で逃げようとはしない。 甘い抵抗の声が仁王の股間を刺激する。 性器は脈打ち、目の前の身体に興奮しきってしまった。 もう限界だった。抱いてしまいたい。 本気で嫌がらない姿に、仁王は了承と取る。 それが自分勝手な解釈であっても今はどうでも良かった。 そんなことより、後から後から溢れ出てくる欲求をどうにかしたかった。 胸の突起を摘んだり舐めたりして弄ると 「あっ、ん…あっ」 と甘く喘ぎだす。 濡れた響きに身体が煽られた。 性急に制服を乱して、膝を割ろうとしたとき、拒まれた。 膝を硬く閉じて、決して開こうとはしなかった。 見ると、柳生は欲望と恐怖が混ざった顔で震えていた。 怖いのだ。 男に生まれたにも関わらず、自分が足を開く行為をするなど考えもしなかったのだろう。 愛撫にその身を悶えさえても、本能的な恐怖は拭えない。 けれど仁王は柳生の状況を理解はしても、それをいたわってやるほどの余裕を持ち合わせていなかった。 「…足、悪ィ」 と、言うと、強引に開かせる。 「嫌っ…、」 柳生は羞恥に顔を背けた。見られたくないのか、両腕で顔面を隠す。 視界の端にそんな様子を捉えながら、仁王は柳生の下肢を剥いた。 下着から飛び出た柳生の性器もまた、興奮で濡れていた。熱く、ぬらぬらと。 仁王はそれを掴んで扱いた。 「あ…あっ、ああっ―…!」 二、三度擦っただけで、柳生はビクビクっと震えて白濁を迸らせた。 早さに驚いたけれど、仁王は嬉しかった。 汚れた手のまま腕は引き剥がして隠れている顔をそっと暴く。 柳生は恥ずかしさからか、泣いていた。 仁王はその涙を舐めてやった。 そして、自分の股間を探って怒張を取り出す。 それは挿入の期待でもうビンビンだった。 今すぐにでも犯したい欲望を、何とか抑えこむ。 男同士は女と違って濡れない。 以前誰かに聞いたことを思い出して、仁王はボディジェルを手に取った。 「痛いじゃろうけど、我慢せェよ」 と言うと、硬く閉じた後孔にジェルを塗りつける。 「ン、んくっ、ンン」 狭い器官を指で犯し、丹念にほぐす。けれど、柳生は苦しむばかりで少しも緩まなかった。 辛うじて入り口が広がったところで、限界がきた。 今すぐにでも挿れたい。がっつく心を抑えて、膝頭を掴むと足を開かせた。 ジェルでどろどろの後孔に我慢汁で濡れた怒張をを押し付ける。 「…あ、」 敏感な先っぽに弾力のある肉を感じると、全身が総毛だった。 それは強烈な快感だ。 全身から汗が噴き出てしたたり落ちた。 (気持ちよすぎ、じゃ) 仁王は生唾を嚥下した。 更なる快楽を求めて、腰を押し込もうとしたそのとき―ガチャリ、と階下で物音がした。 続いて廊下を歩く足音。 時計を見ると6時を回っていた。家族の誰かが帰宅したのだ。 沸騰した頭が水をかけられたように冷静になる。 仁王も柳生も互いを見詰め合った。 ひやりとした空気が漂う。 仁王はそんな状況も無視して、柳生の肩を抱きこむと強引に腰を進めようとした。 「っ、やっ、…いやです…っ、」 晩生の柳生からすれば、階下に人がいるのにこんな行為なんてできるはずもない。 「…頼むけェ、させてくれ」 逃げようとする柳生の耳朶に囁いた。 寸前で止まるのは死ぬ思いだ。 けれど柳生は身を縮ませて、首を振った。 「無理、です…。こんな、こんなところで…っ」 か細く、今にも消え入りそうな声だった。 「こんなとこで止めれん。…今すぐ挿れたいんじゃ」 もはや拷問に近い。滾りきった怒張が我慢の限界を超えて震えている。 「駄目、です…。ご家族の方がいる……あっ、」 仁王は柳生の口を掌で覆うと、無理やり怒張を捻じ込んだ。 「ン――っ…!」 苦痛と恐怖で柳生は叫ぶ。けれど覆われた口からはただくぐもった悲鳴しかでなかった。 「ごめん、ごめん」 仁王は謝りながら挿入しようとした。 しかし緊張で閉じきった後孔は、どんなに押し込んでも奥に進めない。 もはや柳生は全身で仁王を拒否していた。 その目尻からは生理的な涙が落ちている。痛いのだ。 それでも仁王は止まれない。苦しめてでも欲しかった。 「柳生、頼む。…緩めてくれ」 必死に訴えても、柳生は泣きながら首を振るだけだった。 脳みその中は沸騰していて、もう冷静さを欠いている。 このまま身体をいたわることもなく、本気でぶち込んでしまおうか。 とまで、考えた。 けれどそんなことできるはずもない。そんなのはもう強姦だ。 仁王は唇を噛み締めると 「くそっ!」 と、拳を握り締めて床に叩きつけた。 理性を総動員して、先端を埋めた腰をゆっくりと引く。 そして柳生の首筋に吸い付くと、抜いた自分の怒張を扱き始めた。 「くっ、ンンッ、」 仁王が自分の上で自慰を始めたのに気付くと、柳生は掌で顔を覆って声を殺して泣いた。 溜まっていた熱はすぐに限界を向かえ、柳生の上で射精した。 絶頂の快感が、今はとても虚しかった。 帰り際、仁王は柳生を玄関まで送っていった。 けれど二人は目を合わすことができなかった。 ぎこちない見送りだ。 そこにはあるのは、気恥ずかしさともどかしさと、満たされない想い。 遠のく柳生の背中を見詰めながら、仁王は深い溜息をついた。 end. |
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