秘めごと 中学一年も終わりの、春休み。 初めて、射精をした。 きっかけは、市販のアダルトビデオ。 ビデオとはいえ、豊満な乳房の女性の裸体はとても鮮やかで、興奮を呼び覚ますものだった。 すっかり画面に釘付けになってしまい、気づけば下着を汚していた。 ショックだった。 見るのではなかったと、後悔した。 そしてフィルムに写った女性を心底軽蔑した。 誰が見るともわからないビデオに、全てを曝け出すその行動は理解できなかった。 けれど男女の交わりの、生々しい映像は鮮烈で それ以来、瞼に焼きついた性交をネタに、自慰をした。 吐精した後の、言いようの無いむなしさ。 他人のセックスで、性欲を覚える…。 なんて穢れた思考なんだろう。 そんな真実を誰にも知られたくなどなかった。 一生隠して生きていこう。 柳生は、そう心に誓った。 放課後、誰もいない廊下を教室へ急ぐ。 もう練習は始まっている時間で、柳生は自然と小走りになった。 ようやく到着した教室。 扉をカラカラと開けると、もう誰の姿もなかった。 窓際の自分の席へ向かい、週末に使うプリントを探す。 「あれ…?」 手を差し込んでみるけれど机の奥に押しやられているようでなかった。 身を屈めて机の中を覗きこんだ。 と、廊下の遠くから何かが聞こえてきた。 男女の話し声だ。 こんな時間に残ってる人間もいるのかと 探しながら、届く話に何となく耳を傾ける。 「…な、すぐ済むけェ。ちょっとだけじゃ」 「もー、本当だよね?」 「ホンマやって。エエやろ」 「怪しいなあ。今いち信じらんないんだよね」 (あ、仁王君…) その訛りからすぐに判別できた。 何やら押し問答をしている。 二人は言い合いをしながら、柳生のいる教室に入ってきた。 とっさに机の影に隠れる。 何となく見つかりたくなかった。 二人はなかなか出て行かず口喧嘩をしていたけれど、一度隠れてしまうと出て行き難くて帰るのを待つことにした。 こんな風にこそこそ隠れて、会話を盗み聞きするつもりなんてないけど どうしても会話が耳に入ってしまう。 「本気やって」 「本当ー?約束だよ」 「わかったぜよ。はよ、しんしゃい」 「もう、しょうがないなあ…ン、」 「…人来たらヤバイけェ、声出すなよ」 と、仁王の言葉を合図に急に会話が止まった。 (…?) いつの間に出て行ったのか。 不思議に思って振り向くと 教卓の影に重なり合う二つの影が蠢いていた。 女生徒の濡れた声と衣擦れの音。 柳生は自分の目と耳を疑った。 (まさか…) まさかチームメイトのそういう場面に出くわすなんて。 仁王は女生徒に跨って腰を振っていた。 それを目にした一瞬、むかし観たビデオがよぎる。 (いけない。思い出してはいけない) 首を振って、記憶を散らす。 けれど、一度脳裏に蘇った記憶は消えてはくれなかった。 そればかりか女生徒の喘ぎ声に、股間に熱が溜まり始める。 制服の上から掴むと、勃ち上がっていて、じんじんと熱い。 (どうしよう) 駄目だ駄目だと思えば思うほどに、興奮した。 見てはいけないと思うと、視線が絡み合う影を追ってしまった。 なんてはしたないんだろう。 恥ずかしさが込み上げてきたけれど、昂ぶった欲求を抑えることはできなかった。 結局、一部始終を見てしまった。 覗き見の興奮で熱くなった体。 疼く腰がせつなかった。 早く熱を発散したくて、布越しに自身を弄ると、どうしようもない快感が起こった。 先っぽから沁みだしたもので下着が濡れる。 仁王と女生徒は何かを喋っているけどもう頭には入ってこなかった。 早く出て行って欲しい。 出て行ってくれたら、自慰ができるのに…。 切に願った。 ようやく身支度を整えた女生徒が立ち上がって出て行った。 ホッとした。後は仁王だけだ。 (早く、早く…) 願うけれど一向に帰る気配がない。 いぶかしげに見やれば、仁王はこちらへ向かってきた。 しまった、と慌てて影に身を伏せるけれど ただの机にその身を隠し切るのは無理があった。 「…紳士サンは覗き見が趣味やったんじゃのう」 みっともなく隠れた柳生に、悪魔の笑みで仁王は言った。 背筋に冷たいものが流れる。 いったいいつからばれていたんだろう。わからなかった。 「しかも、まさかおっ勃てとるとはのう」 言われて股間を見下ろすと盛り上がっていた。 「こ、これは…、」 慌てて両手で股間を隠すと 「恥ずかしいち思わんか?情けないヤツじゃ」 と、冷たく言い放たれた。 最悪の状況だ。 誰にも知られたくないことを知られてしまった。 何もかもが終わったと、目の前が真っ暗になった。 思考とは裏腹に手の下の高ぶりは治まる気配もなくて。 すると仁王の手が伸びてきて、はしたないそれを掴まれる。 「あ…!」 指が気持ちよくて、声が漏れる。慌てて口を押さえた。 「へェ、男でもンな声が出るんじゃのう。もっと出してみ」 まるでオモチャを見つけたように、仁王の目が輝くと 服の中に指が侵入してきて愛撫をされた。 濡れた先っぽを弄られると腰が震えて堪らない。 あとはもうされるがままだった。 「ン、…あっ、…や、ぁ…!」 声を我慢する余裕もなくて、弄られるままに泣きじゃくった。 そして彼の指を汚した。 「濃いのう。そんなに興奮したんか」 精液で白く汚れた指を見せ付けられる。 死んでしまいたかった。 「…誰にも言わないでください」 夕闇の落ちた教室で、ポツリと呟いた。 「…どーしようかのう」 床に寝転んだまま、仁王を見上げた。 椅子に座って足を組んで、偉そうにこちらを見下ろしている。 その口元の笑みが憎たらしい。 けれど懇願せずにはいられない。 「お願いします。誰にも言わないで…!」 暫くの沈黙のあと 「…エエよ」 と、仁王が言った。 「本当ですか?」 起き上がって尋ねると 「その代わり俺の言うこと聞いたらな」 と、顎を持ち上げられた。 「何でしょうか…」 質問に怯えが滲む。 それを知ってか知らずか仁王は笑った。 「次の試合。俺とおまえで入れ替わるぜよ」 end. |
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