二年間 - 第5話 -





 仁王の前に買ってきたものを見せた。
 感心したように、手にとって眺める姿を見つめていると
 「マジ買うてくるとは思わんかったぜよ。そんなにされたかったと?淫乱かよ」
 と、罵られた。
 酷い言葉にカッと頬が熱くなる。
 羞恥で身体が戦慄いた。
 仁王は冗談で言ったのだ。
 それを真に受けて、こともあろうに自分の肛門に挿入させるための潤滑剤をわざわざ買ってしまった。
 (私は馬鹿だ…)
 後悔しても遅かった。


 命令されるままにベッドの上でシャツ一枚になった。
 暖房をきかせていても肌寒く、ぶるりと身震いをする。
 「オイ、淫乱。もっとケツ上げェ」
 「はい」
 仁王に向けて、のろのろと腰を突き出した。
 まるで犬のようだった。
 更に羞恥にいたたまれなくなった。
 早くこの状況から抜け出したい。
 柳生はこっそりキュッと唇を引き結んだ。
 「これ、自分で塗ってみィ」
 買ってきた潤滑剤をシーツの上に投げられた。
 そんなこと到底できる筈もなくて、半ば呆然とそれを見ていると
 「聞こえんかったんか。はよ、せェ」
 と、不機嫌な声が飛んだ来た。
 「できません」
 「ア?」
 「自分で塗るなんて、そんな…痛っ」
 些細な抵抗を試みると、背中に踵を落とされた。
 鈍い痛みが背筋を走る。
 痛覚を堪えて
 「や、めてください」
 と、弱弱しく言った。
 「おまえがガタガタいうからじゃろ」
 けれど仁王の考えは変わらない。
 それどころか
 「そんなに自分でやるンが嫌じゃったら、
 俺が今からダチ呼んだるけェそいつにしてもらうか?
 指だけじゃすまんと思うけどなァ」
 と、楽しそうに笑っていた。
 「それは嫌です…」
 他人になんてもっと見られたくなかった。
 柳生は恐る恐る投げ出された軟膏を取ると、指に取り出した。
 突き上げていた腰を下ろして、シャツで腰を隠す。
 塗っているところを見えなくするためだった。
 けれどそれも無駄だった。
 隠そうとしているのがわかると、シャツを剥かれ尻を掴まれた。
 白い双丘に仁王の爪が食い込むと痛かった。
 柳生は眉を顰めて必死に堪える。
 「見えるようにしてやれよ」
 「…はい」
 今度は仁王に向けてもう一度腰を突き出す。
 窄まりの付近にそっと軟膏を取り出した指を這わせた。
 「ン…」
 たとえ自分の指でも、先日の傷もあってか過敏な肛門口は反応を見せる。
 吐息を漏らすと、仁王がククっと喉で笑ったのがわかった。
 もうほとんど治りかけの傷を拡げないように、そっ指を触れさせる。
 「ん…、ン、」
 入り口にたっぷり塗ると、徐々に指先が中に入るぐらいに解れた。
 頃合を見計らい、意を決して中指をツプ、と挿入する。
 「…っ」
 言いようの無い異物感に総毛だった。
 柳生は歯を食いしばり丹念にほぐした。
 あまりの羞恥に気が遠くなりそうだった。
 とにかく早く終わらせたい。
 その気持ちだけで指を動かした。


 時間をかけての行為。
 やがて固かった道が、徐々に緩く受け入れやすいものへと変化する。
 解された内部の粘膜が、施されたローションのせいでチュプチュプと濡れた音をたてた。
 「女みたいな音がしとるぜよ」
 「やめてください」
 そんなこと言わないで。
 聞きたくなくて、必死に指を使った。
 スムーズになった指通りに、奥へ奥へと進む。
 もう痛みはなかった。
 指を休めることなくホッと吐息を零す。
 いつまでこんなことをすればいいのだろうと、チラと背後に視線を送ると
 遠くにあった仁王の顔がお尻の間近に迫っていた。
 驚きで絶句する。
 仁王は双丘に鼻先をすり寄せて、ぐちょぐちょになった入り口にフーっと吹きかけた。
 「あっ、」
 不意打ちに声が上がる。
 濡れた粘膜のせいで吐息がリアルだった。
 「すげー。ゆるゆる。中見えそじゃね」
 「見ないでください」
 「うるさいわ。もっと穴広げてみ」
 柳生は青褪めて首を振った。
 こんな屈辱なんてない。
 「もうできません」
 「根性ないヤツじゃのう」
 と、一本の指がようよう入る肛門に無理やり何かが入ってきた。
 「痛っ」
 それが仁王の指だとすぐにわかる。
 強引な仁王のそれは、ゆっくりと舗装した通り道をグイグイと突き進んだ。
 消えかけていた異物感が復活する。
 柳生は残った片手でシーツをギュッと掴んだ。
 全身から脂汗が滲む。
 ローションのおかげで痛みはない。
 けれど強烈な異物感に苛まされた。
 「ココらへんじゃけどなー…」
 仁王はぶつぶつ言いながら、指で奥を弄っていた。
 「ア…、」
 奥を掻き回す指が一点を掠めたとき、身体に電流が走った。
 腰がピクンと震える。
 それは嫌な感じではなくて、むしろ気持ちいいものだった。
 「ココか?」
 もう一度指がそこに触れる。
 「アッ、やっ」
 ビクビクと身体が戦慄いた。そこを押されると気持ちいい。
 「嫌です…、そこは嫌」
 「ウソつけ。ンじゃコレはいったい何じゃ」
 性器を指で弾かれた。
 「…アっ」
 いつの間にかそれは反応していて、固くなっていた。
 頬に朱が走る。
 奥から這い上がる快感に勃起した性器の先端が濡れ始めた。
 「く…ン、ン、や、」
 「どろどろじゃ。ココそんなによかと?」
 仁王はからかいながら、見つけた前立腺をグッと引っ掻いた。
 「ああっ…!」
 急な刺激に快感が走り、濡れた先端から愉悦の精液が迸る。
 「アー…」
 ビクッビクッと身体が痙攣した。
 思いもかけない絶頂感に浸りながらも、泣きたい気分だった。
 「相当よさそうじゃな。ちょっとケツ緩めとけよ」
 仁王はそういうと、すでにガチガチになっていた怒張を取り出した。
 その大きさにギョッとする。
 何を見てそこまで膨張したのか。
 怯えて腰が逃げると、掴んで引き寄せられた。
 緩まった窄まりから自分の指を抜かれ、代わりに凶器を突っ込まれる。
 「痛ッ―…!」
 ローションでほぐしたとはいえ、受け入れがたい大きさに身体が軋んだ。
 「すげェ…」
 それでもいつもよりは緩まっているおかげか、仁王の怒張は遠慮なく奥に進んでくる。
 広がった粘膜は異物を排除しようと、怒張に絡みつきぎゅうぎゅう締め上げた。
 それが仁王に壮絶な快感を与えるとも知らず。
 「く…っ、あんま締めんな」
 ぴっちりと収まると腰を引かれた。
 内臓を引きずられる感覚に、息を呑む。
 その瞬間、思いっきり突き上げられた。
 「アアっ」
 「えーっと、ココか?」
 怒張の先端で中を探られた。
 先ほど指で弄られたそこに、亀頭をこすり付けられると、
 力を無くしていた性器が再び勃起する。
 「アっ…、やァ…ン、あ、くっ…あ…」
 「すげー、絡み付いとる。きつきつじゃ。やっぱ口とは違うぜよ」
 腰を揺すられながら前立腺を刺激される。
 あまりの快感に全身が啼いた。
 「…ン、あっ、あ…、ア、んン…」
 気持ちいい。
 すごく気持ちいい。
 こんな快感なんて知らない。
 怖い。
 攻め立てられながら、そんなことが頭の中をぐるぐると回っていた。
 「やば、あんま持ちそうになか…」
 背後で仁王の呟きが聞こえた。
 それと一緒に突き上げが激しくなる。
 繋がった部分から、ぐちょぐちょと濡れた音がしていた。
 「あっ、あっ、嫌っ」
 腰を引かれた後、怒張を思いっきり突き立てられる。
 限界だった。
 「あー…、ダメっ…!」
 「……クっ、」
 力いっぱい前立腺を押し上げられると、反動で勃起した性器からどぴゅっと白濁が噴出した。
 「…ア、…ア」
 身体がビクビクと震える。
 全身を快感が駆け巡った。
 「ン―……」
 仁王は内部で何度も痙攣をしている。
 柳生は全てを出し切るとその場に崩れこんだ。
 身体の何処にも力が入らなかった。
 「フー…。クセになりそうじゃ」
 仁王は力のなくなった自分のイチモツを抜くと、ティッシュで汚れを拭き取った。
 一人でさっさと身支度を整えるのを横目に柳生はシーツに寝転んだ。
 瞼を閉じる。
 恥ずかしくて目を合わせたくなかった。
 「アレ?シーツ濡れとる」
 目を開けると仁王と目が合った。
 その指には白いどろりとした粘液。
 それは柳生の放った精液だった。
 目にした瞬間、顔を背ける。
 「オマエ、後ろだけでイケたんか。どんだけ淫乱なんじゃ」
 罵倒を浴びせられながら、身体を軽く蹴られた。
 恥ずかしくて死んでしまいたかった。



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