声と敗北






 部室の隙間から真田と柳生が見えた。

 すると二人は抱きしめあった。
 そして接吻をして、真田が柳生をテーブルの上に押し倒して練習着を脱がせ、まぐわい始めた。
 仁王は自分の眼で見ている光景が信じられなかった。
 柳生の濡れた声がときどき漏れる。
 「ああ、真田君、好きです」と感じ入った声で喘いでいた。
 仁王は異常な興奮を覚えるのを禁じ得なかった。
 つまらない真面目な男、としか思っていなかった柳生比呂士に初めて興味の念を抱いたのだった。




 二人きりになれる機会を狙って、仁王は柳生に手を出した。
 すぐに足を開くのかと思っていたら、思わぬ抵抗にあった。
 もうみんな帰ってしまった部室で男二人の攻防が始まる。柳生は手強かった
 体中に痣を作って押さえ込もうとしたけれど叶わない。
 
 仁王は切り札を持ち出した。

 「おまえ、真田とやっとるじゃろ」


 効果覿面であった。
 健康そうな頬はみるみるうちに蒼白になり、明らかに恐怖で震え出した。
 秘め事だったのだろうか。
 柳生は大人しくなると身体を開いた。



 挿入すると粘膜が精を搾り取るように絡みついてくる。
 「すげェ、何じゃこりゃ」
 そこは恐ろしく気持ちのいい場所だった。
 仁王はかつてないほどの快楽を貪った。
 柳生の身体は正直だった。
 嫌がってはいても、突き上げてやるとすぐに勃起した。
 そしてはしたない汁をたらたらと零し始める。
 淫乱の資質を持っていた。

 けれど、最後の砦とでも言うのか。
 柳生は必死に声を堪えていた。
 一言も漏らすまいと、唇が千切れるほど噛み締めている。
 仁王は柳生の声を聞きたかった。
 「ひいひい言うてみィ、この淫乱!」と罵り激しく腰を使うと、柳生はとうとう「ああっ!」と叫んだ。
 漸く出た声に満足したのも束の間、続けて柳生の薄い唇が紡いだのは「真田君」だった。

 肌の打ち合う音がぱんぱんと響く。
 仁王は悔しかった。
 何とかして自分の名前を呼ばせたかった。
 激しく身体を攻めながら、「俺の名を呼べ」と頬を張り迫った。
 けれど柳生は絶対に言わない。
 柳生の身体は更に燃え上がり、一度射精をした後、オーガズムに達してイキまくっていた。
 やがて収縮する肛門の締まりに、仁王は限界を感じて震えた。
 耐えようと思っても耐え切れるものではなかった。
 精液が尿道を駆け抜ける瞬間、真っ白になった思考に、柳生の「真田君、真田君」と啼く声だけが聞こえてきた。



 どうしようもない敗北であった。
 柳生の身体に精液を注ぎ込みながら、仁王は「くそっ!」と叫び顔を歪め、そして全てを柳生の身体へと迸らせた。







                                                                     終
                                                      (2006.1.8ペーパーより再録)



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