この気持ちは、まるでパズルピース カチリと嵌る場所を求めて彷徨っている 好きすぎて、バカみたい 第2話 桜咲く、春四月―― 満開の桜並木の道を、柳生は一人で歩いていた。 桜の花びらが風にまかせて舞い散り、敷き詰められた花弁は辺りを薄紅色の絨毯に変えた。 柳生は今年医大への外部受験に現役で見事合格を果たした。 必修科目で埋め尽くされた時間割にうんざりする間もなく、忙しい毎日に忙殺されていた。 自然と高校時代の仲間達への連絡も疎かになる。 (もっとゆっくりしたいものです) そう思うと、柳生は小さくため息をついた。 「何をため息ついているんだい?」 いきなり背後からかけられた声に、柳生は驚いて心臓が止まりそうになった。 振り返ると、立っていたのは幸村だった。 「―…幸村君でしたか。驚きましたよ」 動揺を隠そうと、僅かにずれた眼鏡のブリッジを押し上げた。 「ごめんごめん。まさかそんなにびっくりするなんて思わなくてね」 「今日は検査ですか?」 「うん、そうなんだ。そしたら柳生の姿が見えたからね」 「そうですか。最近体の調子は?」 「すこぶるいいよ。今日もただの定期健診だしね」 「それはよかったです。みなさんお元気ですか?」 「ああ、とても元気だよ。あ、……そうえいば、仁王と仲良かったよね」 「ええ、ダブルスも何度か組まさせてもらっていましたし」 「あいつ、今どうしているか知らないか?」 思いもかけない質問に、柳生は目を見開いた。 そんなことは、こちらが聞きたいくらいで。 「卒業してからはもう連絡を取っていませんね。―…どうかしたのですか?」 駅を降り立つと、終電のせいか思ったよりも人で溢れていた。 改札を抜けて徒歩で自宅へと向かう。 柳生の家は閑静な住宅街で、少し歩くと先ほどとは打って変わって静まり返る。 腕時計で時間を確認する。時計はとっくに日付が変わっていた。 旧友と久しぶりに話すと、積もる話もあってか時間はあっという間に過ぎてしまっていた。 話の大半は仁王のことだった。 持ち上がりで合格を決めていた立海大には入学することなく、音信不通だというのだ。 実家に帰ったのかとも思って連絡を入れてみたけど、家族ですら仁王を探していた。 捜索願いも出されていると言う。 (仁王君が消えた…) 昏い淵に佇む気分だった。 別れを告げた自分のせい? 違う。……そんな雰囲気は微塵も感じなかった。 いったい何を思っての行動なのだろう。 わからない。 わからない。 わからない。 家に帰り着くと、布団の中に潜り込んだ。 頭の中は仁王のことでいっぱいだった。 (もう、考えたくないのに…) 柳生は目を閉じた。 眠れば、この気持ちから解放される。 そう思っても、小さくなっていた痞えが、じわじわと大きくなっていくのを感じずにはいられなかった。 >>NEXT |
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