夢をみた。 仁王と海の夢だった。 内容なんて覚えていない。 ただ、朝目覚めたとき、泣いていた。 涙の意味が柳生にはわからなかった――― 好きすぎて、バカみたい 第3話 仁王と連絡を取る方法が、一つだけあった。 それは誰も知らない方法で。 だらしなくベッドに寝転んだまま、携帯電話を開く。 発光するディスプレイの画面に目を細めながら、仁王の名前を表示させた。 そこには番号が二つ並んでいる。 一つは、みんなが知っている番号。 もう一つは、柳生専用。 付き合い始めの頃、どんな手を使ったかは知らないが、 親にも内緒で仁王が持った携帯電話だった。 あの頃は本当に嬉しかった。 けれど、もう鳴らすことの無い番号。 見慣れたそれを見つめたまま、ため息をついた。 この番号が使われているとは限らない。 …だけどもし、これが使われいるとしたら? この番号は柳生しか知らないはずで、それがまだ解約されていなかったら、 意味するところは一つだ。 頭のどこかで、何かを期待する自分を感じた。 恐る恐る、通話ボタンを押す。 『――おかけになった番号は現在使われておりません』 機械的な女性の声のアナウンスが流れた。 手にした携帯電話が、するりとフローリングの上に落ちた。 柳生は笑った。 自分の愚かさに、どうしようもなく笑いが零れた。 もともと関係を断ち切ったのは自分からだった。 それでも、期待してしまった。 もしかしたら、仁王が待っていてくれるのではないかと。 昨日の昨日まで、幸村から話を聞くまで、もう過去のことと思っていたくせに。 仁王が行方不明になって、それがもしかしたら、自分との別離のせいではないかという、傲慢。 柳生は胸を激しく掻き毟った。 この恥知らずな思いを打ち消したい。 床に転がっている携帯電話を拾うと仁王のアドレスを消した。 すると、苛立ちがすうっと引いていく。 これで終わりだ。 もう、自分には関係ない。 この苛立ちも、朝の涙も、もう何もかも意味の無いもの。 携帯電話を閉じた。 もう学校に行かなくてはいけない時間だった。 柳生は起き上がると、いつものように部屋を後にした。 それから半年が過ぎ、誰もが仁王のいなくなった日常に馴染んでいた。 だけど、柳生の嵌らないパズルピースはそのままだった。 >>NEXT |
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